コーディングエージェントが一つだけなら、Claude CodeとCodexのどちらを選ぶかが大きな問題に見えます。ところがセッションが三つ、四つと増えると、悩みはモデルから運用へ移ります。何を依頼し、どこで止まり、どの変更がレビュー待ちなのかを人が見失わないことの方が難しくなります。
ターミナルを増やせばエージェントはいくらでも追加できます。しかし先に限界へ届くのは人の注意力です。完了通知を逃し、似たブランチを開き直し、同じような回答を最初から読み直す時間が積み重なります。OrcaとPaseoが解決しようとしているのはモデル性能ではなく、この監督コストです。
ここで扱うのは、実機に導入して速度や安定性を測ったベンチマークではありません。2026年8月19日時点の公式ドキュメント、公開リポジトリ、公式UI素材をもとに、どの運用上の詰まりに合うかを分けています。導入前にはリンク先の最新仕様を改めて確認してください。
現場で出た問い
見るべきなのは「何個まで起動できるか」ではなく、「今、人が見るべきセッションを何秒で見つけられるか」です。二つのターミナルを交互に見る人には新しいダッシュボードが余計な画面になります。一方、十個のworktreeと複数の契約を行き来する人にとって、タブ管理は記憶力テストです。
作業する場所も重要です。机でブラウザとdiffを並べてレビューする時間が長いのか、外出中にスマートフォンで承認待ちを確認し、次の指示を出したいのかで答えが変わります。Orcaは前者、Paseoは後者に重心があります。どちらも不要ならターミナルが最も強い選択です。
テスト条件
比較する場面は、一つのリポジトリで機能修正、テスト追加、UI確認を別々のセッションに任せ、人が結果を見て一つのブランチを採用する流れです。確認項目はセッション状態、worktree、diffとブラウザ、アカウント利用枠、離席後の再接続、権限、ネットワーク境界に絞りました。
機能数より先に見える差は監督する場所です。ターミナルでは状態が各ウィンドウに残ります。Orcaはデスクトップの一画面へ集約します。Paseoはデーモン上のセッションへ複数のクライアントから接続します。
ターミナルで十分なとき
Codex CLI公式リポジトリは、ローカルで動くコーディングエージェントとしてCodexを案内しています。Claude Codeもターミナルから始まります。シェル、tmux、Git worktreeだけで運用すれば、更新するソフトウェアが少なく、問題の経路も追いやすいままです。
一つか二つのセッションを、終わるまで集中して見られるならそれで十分です。新しいデスクトップアプリや遠隔接続が制限される環境、ハーネス自体を厳密に管理したい環境でもターミナルが最も予測しやすい選択です。
「テスト待ち」「質問待ち」「完了したが未レビュー」を窓の位置と記憶で管理し始めたら、道具を検討する時期です。人が状態を復元する時間がコードを書く時間を削っているからです。
Orcaは机上の管制室に近い
Orca公式ドキュメントは、タスクごとにGit worktree、エージェント用ターミナル、ブラウザを持たせるデスクトップIDEと説明しています。同じ依頼を複数のworktreeへ送り、結果を比較し、diffにコメントを付けてエージェントへ返せます。Design Modeでは、画面上でクリックした要素のHTML、計算済みCSS、クリッピング情報を文脈に渡せます。Claude CodeとCodexにはアカウント切り替えや使用量・上限の表示も統合されています。

出典: stablyai/orca公式リポジトリ docs/assets/readme-hero.jpg、2026-08-19確認。OrcaはMITライセンスのオープンソースです。
Orcaが合うのは、一つの机で複数の結果を比較し、頻繁にレビューする人です。ページ、DOM、diffを往復するフロントエンド作業や、同じ課題を複数のエージェントに任せて結果を選ぶ仕事では違いが明確です。複数のClaude・Codexアカウントと利用枠の切り替えが負担になっている場合にも意味があります。
一方で画面は密度が高く、エディタ、ターミナル、ブラウザ、Gitレビューを一つの製品で覚える必要があります。セッションが一つか二つなら過剰です。モバイルはデスクトップを補助する性格が強いため、スマートフォンやWebを主な入口にしたいならPaseoの構造が自然です。
Paseoは場所を移してもセッションをつなぐ
Paseo公式リポジトリでは、コンピュータやサーバー上のデーモンがエージェントを動かし、デスクトップ、Web、iOS、Android、CLIから接続する構造を説明しています。Claude Code、Codex、OpenCode、Piをネイティブに扱い、ACPのカタログで対象を広げます。worktree、diffレビュー、プロバイダーをまたぐオーケストレーションも公式の範囲です。

出典: getpaseo/paseo公式リポジトリ packages/website/public/hero-mockup.png、2026-08-19確認。PaseoはAGPL-3.0です。
Paseoの価値は一画面に詰め込む情報量ではなく、継続性です。デーモンをノートPC、デスクトップ、VPS、Dockerに置き、場所に応じてクライアントを変えられます。音声入力はローカルモデルまたは選択した音声サービスにつなげられます。
この構造はネットワーク設計も必要にします。公式セキュリティ文書では、新規導入時のリレーは自分で有効にするまで無効で、有効化したリレーはエンドツーエンド暗号化を使います。TailscaleなどのVPNによる直接接続も可能です。ただしデーモンを0.0.0.0へバインドすると、すべてのネットワークインターフェースへ公開されます。公開するならパスワード、ファイアウォール、許可ホスト、HTTPSを組み合わせる必要があります。
運用で止まる部分
両方ともworktreeを重視しますが、worktreeはGitの競合を減らす仕組みであり、完全なセキュリティサンドボックスではありません。ホームディレクトリの認証情報、外部ネットワーク、本番データへ届くなら別の権限境界が必要です。
Orcaの対応エージェント文書には、新規起動でClaudeの--dangerously-skip-permissionsやCodexの--dangerously-bypass-approvals-and-sandboxなどをあらかじめ入れるとあります。設定でManualへ変更できます。最初は手動承認にし、リポジトリごとに範囲を広げる方が安全です。
Paseoは初期状態でlocalhostへバインドしますが、遠隔接続を加えた瞬間にネットワークサービスになります。文書も、パスワードなしでデーモンへ到達できる人は接続できると警告しています。通信の暗号化と接続者の認証は別々に確認しなければなりません。
さらに多い失敗はレビュー待ちです。五つのエージェントが同時に終わっても、承認者が一人なら処理量は五倍になりません。完了状態、人のレビュー待ち時間、再実行、破棄したworktreeを一週間記録すると、道具が必要なのか同時実行数を減らすべきかが見えます。
実際に見比べた点
| 判断項目 | ターミナル | Orca | Paseo |
|---|---|---|---|
| 監督する場所 | 各ターミナル・tmux | デスクトップ統合画面 | デーモンにつながるデスクトップ・Web・モバイル・CLI |
| 並列作業 | worktreeと窓を手作業で構成 | worktree・ブラウザ・diffを一つの流れへ統合 | worktree workspaceを複数クライアントから操作 |
| 強い場面 | 単純さ、低い追加コスト、予測しやすさ | 並列比較、UI・diffレビュー、アカウント表示 | 遠隔継続、セルフホスト、複数端末 |
| 最初に見るリスク | 人が状態を失う | 権限回避の初期提案、画面の複雑さ | デーモン公開、認証、暗号化 |
| ライセンス・モデル費 | 各エージェントの条件 | MIT、モデル契約は別 | AGPL-3.0、モデル契約は別 |
もう一度選ぶなら
二つのセッションを集中して扱う日はターミナルを使います。同じ問題を複数のエージェントへ渡し、画面とdiffを机で比較するならOrcaを先に見ます。サーバー上で作業を継続し、移動中に状態確認や追加指示が必要ならPaseoです。
最初から二つとも導入はしません。一週間だけ「実行中」「質問待ち」「レビュー待ち」「採用」「破棄」を記録します。デスクトップ上の比較で状態を失うならOrca、移動でセッションが切れるならPaseo、何も失っていないならターミナルが答えです。
適用前のチェックリスト
- 起動数ではなく、同時にレビューする結果の数を数える。
- 同じ課題を比較するのか、独立した課題を並列に進めるのか分ける。
- worktreeの外で読める認証情報、ファイル、ネットワークを洗い出す。
- Orcaは新しいエージェントをManual権限から始める。
- Paseoを遠隔公開するなら、リレーまたはVPN、パスワード、許可ホスト、ファイアウォールを組み合わせる。
- 完了通知よりレビュー待ち時間と破棄した結果を測る。
- 最終mergeと外部デプロイの承認者を決める。
自分の運用条件を比較表に記録する
この記事は公式ドキュメントと公開リポジトリに基づく比較調査であり、実地での性能や安定性のテストではありません。導入を決める前に、現在の出典、監督の流れ、権限、ネットワーク境界、レビューの上限をワークシートに記録し、自分の環境に照らして判断してください。AIツール比較ワークシートをダウンロード。
確認した資料
- OpenAI Codex公式リポジトリ: ローカルCLIの基準
- Orca公式ドキュメント: worktree中心のIDEと遠隔実行
- Orcaの対応エージェントと権限初期値: 権限回避フラグとManual設定
- Orca公式リポジトリ: 機能、MITライセンス、公式画面
- Paseo公式リポジトリ: デーモン・クライアント、AGPL-3.0、公式画面
- Paseoセキュリティ文書: リレー暗号化、直接接続、パスワード、公開範囲
- Paseo worktree文書: workspace分離、ブランチ、レビュー、整理
OrcaとPaseoはエージェントを賢くする道具ではありません。並列作業が増えたときに人が失う状態を取り戻す道具です。選択はエージェントの数ではなく、監督上の問題から始まります。
参考にした資料
報道内容、公式文書、政策背景、製品情報、変わる可能性のある主張を確認するために参照した公開情報です。
- Codex CLI official repositoryOpenAI確認した内容: ターミナル運用の基準; ローカルCLI確認日: 2026-08-19
- What is Orca?Orca確認した内容: worktree中心の構造; 対象業務; リモートworktree確認日: 2026-08-19
- Supported agentsOrca確認した内容: 対応エージェント; 権限モードの初期値確認日: 2026-08-19
- Orca repositoryStably AI確認した内容: 並列worktree; Design Mode; 利用枠; MITライセンス; 公式画面確認日: 2026-08-19
- Paseo repositoryPaseo確認した内容: デーモンとクライアント; 対応画面; AGPL-3.0; 公式画面確認日: 2026-08-19
- Paseo securityPaseo確認した内容: 暗号化リレー; 直接接続; パスワード; ネットワーク公開確認日: 2026-08-19
- Paseo git worktreesPaseo確認した内容: worktree分離; ブランチとレビュー確認日: 2026-08-19



